富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社(社長:辻 重紀、以下FFGS)は、2018 年11 月22 日富士フイルム東京ミッドタウン本社にて「〜顧客に必要とされるパートナーとなることを目指して〜 激動の時代に、印刷会社の後継者として奮闘した10 年を振り返る」をテーマに、株式会社 エクシート 専務取締役 出口淳氏を講師に迎えて『経営セミナー2018』を開催した。FFGS では、印刷業経営の参考にしていただきたいとの思いから、印刷業の経営者様に自ら取り組まれた経験に基づいてお話いただくセミナーを2010 年より毎年、全国各地で開催している。今回東京で開催されたセミナーも好評を博し、当日は約120 名が参加した。
出口氏は印刷会社勤務、JAGAT 調査研究員等を経て、2007 年株式会社エクシート(福井・坂井市)に入社。エクシートは1952 年に出口印刷所として創業、1992 年商号を(株)エクシートに変更した。総合印刷がメインだが、自社の出版物を持つ、医薬品会社向けの添付文書の仕事が多い、といった特徴がある。商圏は福井市を中心とした半径約18km の地元密着型企業である。
第1部:株式会社エクシート 専務取締役 出口淳氏
「〜顧客に必要とされるパートナーとなることを目指して〜 激動の時代に、印刷会社の後継者として奮闘した10 年を振り返る」

■課題が浮き彫りに
2007 年からの10 年間、リーマン・ショックや東日本大震災などの要因で印刷市場環境は大きく変化した。材料費の値段が上がる一方で仕事の単価は下落し、利益が圧迫されるようになった。
出口氏が2007 年に入社して気付いた課題のひとつに「業務の重複」があった。同じ情報が営業、工務・生産管理、経理などの様々な部署で重複して入力されていた。その結果、情報の追加や修正があった際、どれが最新の情報なのか分からない状態であった。
生産管理の3つのミッション「予算管理」「品質管理」「納期管理」も適切に行われていなかった。また、作業手順の標準化も行われていなかった。社員も考え方がバラバラで個別最適になっており、ミスが多く、1人1人の頑張りが利益に結びつかず不採算の事業もあった。
東日本大震災後には、「ドンブリ営業」「ドンブリ製造」「ドンブリ勘定」という3 つのドンブリという課題と向き合った。これらは、計画性のない営業、作業手順標準書のない製造、原価管理のできていない会計、のことである。
■製造部門の改革
製造部門の改革は、「脱・ドンブリ勘定」「脱・ドンブリ製造」を目標に進められた。まず、
2007 年にMIS を導入し、重複業務の廃止、情報の一元管理、最新情報の把握、収益管理などができる体制を整えた。2009 年から始めた5S 活動により社内のコミュニケーションは改善し、全員が同じ方向に向かうようになった。あわせて、経営講話や作業手順の標準化教育を行い、全体最適の議論ができる土台をつくった。経営講話は全社員を対象にした座学とディスカッションを組み合わせた90 分の勉強会で、これまでに30 回程度実施している。
また、顧客目線、製薬会社目線でのモノづくりを実践するため、製薬会社の品質基準GMP (Good Manufacturing Practice)を取り入れ作業手順の標準化を進めた。「現場ウォッチ」という取り組みも進めている。見積もり・作業指示・作業実績の間に乖離があるほど赤字になりやすいが、乖離が起こる原因のひとつに営業が製造に詳しくないことがある。エクシートでは見積もりの精度を高めるため、営業マンが製造現場に行って製造担当者が作業内容を説明する「現場ウォッチ」を行っている。

第一部 出口氏の講演
■販売部門の改革
「脱・ドンブリ営業」そして「コト売りへの転換」に取り組むことで、エクシートは販売部門の改革を進めている。予材管理はその改革の柱のひとつで、営業の計画性を高めるために実践している。例えば1,000 万円の目標に対して2 倍(2,000 万円)の案件を積み上げることで予算の達成を確実なものにする、という考え方である。
営業人材教育にも力を入れている。例えば、社内検定制度により、自社に必要なWeb やマーケティングに関する知識や提案のスキルなどの習得を奨励している。また、新しく入社した営業に対しては、見積もりや工場への指示出しができるようにすることに加え、予算を達成できるように予材を積み上げているか、その積み上げ方はどうか、などについても先輩社員が教えている。
一方、営業戦略の一つとして、顧客に向けた自社開催セミナーも積極的に実施している。昨年からスタートした次世代のマーケティングを紹介するセミナー『MARKET NEXT』
は、良い体験を提供することで既存顧客との関係性を深めることを目的としている。有料会員制(月額66,000 円)の勉強会も2018 年1 月からスタートした。営業による接近戦の効果・効率を高めるため、こうした後方からの発信も積極的に進めている。
■さらなる生産性向上による収益性改善
エクシートでは働き方改革を進めており、特に盲点となっている営業の生産性向上に注力している。例えば、提案している時間 = 攻めている時間を増やすため、「時間の予実管理」を行っている。4〜5 人のチームで毎朝10〜15 分ほどその日の訪問計画について話し合い、帰社後に訪問の成果を検討している。
また『FUJIFILM WOKFLOW XMF』を生産性向上にも役立てている。XMF を導入したのは、最終RIP で演算したものを校正として出せることが理由であった。製薬会社のお客様から「文字化けを避けるため、最終RIP で演算したものを校正として出すこと」という要求事項があったためである。
しかし、実際運用していく中で、単価の低い案件の利益率向上やプリプレスの省人化などの効果も得ることができた。DTP スタッフが『XMF』を使って、自分で差分検版や面付け、CTP 出力ができるようになったため、内校や刷版、検版などの作業(約2 人分)を削減できた。
■会社を変えるため、社員の意識を変えるため
新しいことに取り組む際、社内は通常「分かってはいるがやりたくない」という空気になる。そうした中で新しいやり方を定着させるためには、併用期間を設けて退路を断ち、やらざるを得ない環境に持っていくことが有効である。
エクシートではこれまで紙の伝票をMIS に、日報を予材管理に、入稿サーバを『XMF Remote』にする際などを、この手法で進めてきた。今年度はこの手法で、紙の校正をオンライン校正にすることに取り組んでいる。
「なぜ行うのか?」を社内で共有することも不可欠である。新しいことを行う際には必ず問題が起こる。熱いうちは良いが、冷めて止めたくなる時、続かない時もある。こうした状況を乗り越えて最後までやり抜くには、最初に「なぜ行うのか」を明確にしておくことと、思いの強さを確認しておくことが大切である。
第2部:経営戦略実践編 社員様インタビュー映像による、(株)エクシートの取組みのご紹介
第2部では、FFGS 営業本部 部長 中林鉄治を進行役として、「新生エクシートの現在」をテーマに、「コト売りへのシフト」「先行管理で目標達成」「全社で仕事の仕方改革」という3つについて、社員のインタビュー動画を交えながらより詳しく伺った。

■コト売りへのシフト、先行管理で目標達成
コト売りは上流から関われるため単価も収益性も高くできる。エクシートは地元福井のタウン誌「福楽」の他、様々なフリーペーパーも出版してきており、そこで蓄積した編集の 知見を活かして病院や行政の広報誌やホームページ、大学の案内などの仕事を受注している。
また、広告の出稿企業からはスマートフォンアプリやホームページの制作などの仕事の発注、有料の会員制勉強会へ参加していただている。このように、接点のあるお客様へのコト売りを積極的
に進めている。
7 年前に導入した予材管理のお陰で、営業が先んじて動いたりゴールから逆算して考えたりできるようになった。また、3 ヶ月という期間で予材を管理することで、達成率が安定するようになっている。なお、予材管理も含め、成果は社内加工利益(売上から材料費と外注費を除いた金額)という付加価値ベースで管理している。
■全社で仕事の仕方改革
エクシートでは、全社でジョブ毎の損益管理・向上に取り組んでいる。ジョブ毎の費用は、各工程で設定した1時間あたりの費用(時間ペイ予算)に実際にかかった作業時間を掛け合わせて算出している。営業では、現場ウォッチでジョブのボトルネックを把握することで、見積もりの精度を高めたり用紙の変更などお客様にボトルネックを解消する提案をしたりなどして、ジョブ毎の利益向上を進めている。

印刷業界も、最近では30 代・40 代前半の経営者が増えている。そうした若手経営者は、会社の金融機関や製薬会社といったお客様のため、社内に「クリーン印刷室」を設置している。
ここでは、印刷機器に設置した検査装置による印刷品質の管理に加えて、紙の入庫から出荷までの作業手順を標準化している。クリーン印刷室での取り組みで得た知見をもとに、様々な工程の作業手順も標準化している。
制作担当者全員が『XMF Complete』を操作して面付け・刷版業務を行えるようになった際にも、作業手順標準書が作成・活用された。『XMF』はアイコン、画面のデザインなどが分かりやすいため、標準化された業務をスムーズに行うことができている。また、病院の広報誌の仕事などで『XMF Remote』をお客様にも使っていただいているが、使いやすいため非常に好評を得ている。
『XMF Remote』の一番大きいメリットは業務時間の短縮で、営業も提案の時間 = 攻める時間を増やせている。また全ジョブ運用は、出先での校正や案件の進捗確認といった、営業の働き方改革の新しいスタンダードづくりのベースとなっている。これらは、インターフェイスなど操作性がシンプルだから実現できた。この「シンプル」さも、従来使用していた他社システムからXMF に変えた理由である。
出口氏は、10 年前は、まだ経験も知識も浅かったこともあり、先輩社員と向き合うのは簡単ではなかったという。ただ、現状維持は先細りが確実視される中、それを選ぶことは自分のやりたいことではなく、自分に嘘をつくことになることであった。また、改革を前進させることで良いことがあるかもしれない。こう考えた時に気持ちが楽になり、もっと前に進むこと、困難に正面から向き合うことができるようになった。
印刷業界も、最近では30 代・40 代前半の経営者が増えている。そうした若手経営者は、会社の体質をどう変えていくか、ベテラン社員とどう向き合うか、といった共通の課題を持っている。今回のセミナーは、若手経営者にとっても大いに参考になるものであった。
『経営セミナー2019』は下記日程で順次開催を予定しています。詳細および参加ご希望の方は弊社営業担当までお問い合わせください。
■高松 2019 年2 月15 日(金)講師:東洋印刷株式会社 代表取締役社長 角 高紀氏
■静岡 2019 年3 月 4 日(月)講師:東洋印刷株式会社 代表取締役社長 角 高紀氏
■那覇 2019 年4 月15 日(月) 講師:株式会社エクシート 専務取締役 出口 淳氏