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第2回 「誰でもメディア」で出版社は進化しなければならない

株式会社インフォバーン 代表取締役CEO 小林 弘人

 

日本にインターネットが上陸して15年ほどになるが、その黎明期から関わってきたのが株式会社インフォバーンの小林弘人さんである。94年に米国で勃興したインターネット文化を伝える雑誌『ワイアード』の日本版を創刊して以来、インターネットの普及に貢献してきた。これまでECサイトからネット映像配信、有名人ブログのプロデュースまで関わった仕事は枚挙に暇がない。2009年春には『新世紀メディア論』を出版し、これからの出版の方向性を示唆し話題となった。「“誰でもメディア”の時代になり、出版事業の在り方が変わってきているのに、既存の出版社は未だ旧態依然の手法に拘っています。出版社はネットメディアで新しい価値を創出していく時期に来ています」と説く小林さん。ネット時代の出版業の在り方についてお話を伺った。

 

限られた棚を持つ書店はヒット商品
ネットではニッチメディアを売る

----- 御社はどのような仕事をされてらっしゃるのですか?
小林 1つはWeb上でメディアを構築されたい企業をサポートし、事業を軌道に乗せる仕事をしています。従来でしたら、雑誌の抜刷や広告を売って、ユーザーとは間接的にコミュニケーションしてきましたが、今は、「誰でもメディア」の時代で、自社でメディアを持てる時代になってきました。でも、企業の中にはメディア運用のノウハウを持っていないところが多いため、メディアの黒子として全面的にお手伝いするのが当社の仕事です。インフォバーンのグループ会社である株式会社メディアジーンでは、オリジナルメディアをWeb上で展開しています。米国および世界10カ国で運営されるテクノロジー製品情報ブログメディアの日本版に当たる『ギズモード・ジャパン』ほか、働く女性をターゲットにしたライフスタイルポータルサイト『マイローハス』など、テーマ別のメディアを開設しています。 
------ では、Webサイトやブログの立ち上げから関わってらっしゃるのですね。 
小林 はい。しかし、単純に立ち上げて終わりではなく、目的を持って立ち上げて採算を取ることが求められます。ですから、ほとんどコンサルティングに近い仕事と言えるでしょう。ビジネスモデルを考えて、実際の開発から日々の運用までお手伝いをしますので、日本でも珍しい事業だと思っています。
 ------ 出版メディアは今後どうなっていくとお考えですか?
小林 情報は大きく分けると、フローとストックの2つになります。フローは川のような流れで浮動性を持ち、ストックは沼や湖、ダムなどのように貯水されている状態で、文脈中心です。書籍が究極のストックと言えるでしょう。フローは新聞などの速報性の高い媒体を指しますが、今では電子メディアのフローが高まりつつありますから、紙メディアは限りなくストックに近づいていくでしょう。そのようにフローとストックが紙のみで完結しない今日、中途半端な紙メディアは存在価値を失っていくと考えられます。

 また、情報の届け方の枠組みが変わってきています。ネット上のIT企業にお客さんを取られたという問題ではなく、情報を届ける枠組み自体が、もはや変質してしまっています。面積が限られている店舗では、希少資源を使って陳列できるのは、どうしても大ヒット商品が中心になってきます。それがこれまでの書店販売だったわけですが、ネット上では物理的に制約がありませんから、いくらでも棚を設けることができます。これまで大ヒット商品以外は相手にしてこなかった売り手市場の業界でしたが、それは、消費者に可視化されていなかったに過ぎません。それが可視化されるようになり、購買が分散することによって、ネット上ではヒット商品でないものが売れるようになりました。「2:8の法則」が示すように、小売業の売上の8割を支えているのは2割の商品で、リアルな棚の販売では、この2:8の法則が通用しますが、ネット上では残りの8割が売上の大半を占めるようになります。そんな潜在的な需要をいかにビジネスに結び付けていくかが問われているのです。

 

トルソーで出版社はプロとしての
メディア販売に乗り出すべきだ

 

 ------ では、8割の商品の中で、得意分野に絞って売っていくスタイルを目指せば良いのでしょうか?

小林 一概には言えませんが、8割の商品の1商品の売れ行きは数冊かもしれません。それらが集積しているアマゾンのようなネット書店では、そのトータルでの売上を目指しています。コンテンツを提供している人は数冊しか売れないのであれば、商売にはなりません。取次に本を納品したら食っていけるという時代は終わるでしょう。“誰でもメディア”の時代になると、メディアで食べていくには、有料コンテンツの販売や広告を取ってくるだけではなく、2元的ニッチメディアで、特定の読者に向けたクオリティの高い情報を提供し、これまでと違った換金化手段を考える、別の頭の使い方が必要になってきます。そのためには、ビジネスモデルをゼロから開発・発明しなければなりません。出版社が、紙の本だけを販売し売上を上げてきた従来の方法しか頭に浮かばないのであれば、いきなりネット上で同じことをしても、行き詰ってしまい、ビジネスとして成り立たせるのは困難になるしょう。

----- では、出版社の社員や組織も新しくする必要があるのでしょうか?

小林 そうですね。現在の出版社は、紙や棚が希少資源だった時代が前提で運営されているため、どうしても重厚長大になってしまうわけです。そのような組織がネット上で利益を稼ぎ出せるとは思えません。とは言っても、ネット上だけで食べていける出版社にするという考えもおかしいと思います。サービスを立体的に設計し、その上でネットを有効活用していく方法になるでしょう。

------ 著書「新世紀メディア論」に書かれていましたが、ロングテール・モデルの中の「マジックミドル(魔法の真ん中)」が鍵を握っているとのことですが…。

小林 マジックミドルの左側はマスメディアが運営するメディアになり、右のロングテールが個人のブログのようなパーソナル・メディアになります。真ん中の胴体部(トルソー)は、自社の核となるコアコンピタンスを最も引き出させる部分です。そのトルソー市場に既存メディアが対処していないために、IT企業や個人に次々と参入され市場が獲られているのではないでしょうか。本来ならその部分は特に中小の既存メディアが得意な市場なのですが、進化していないために、違う分野の企業に進化を奪われているのです。しかし、トルソー部分は本来、プロの人たちのほうがビジネスを展開しやすいと考えられます。例えば、車の情報誌で言えば、総合誌よりもポルシェ911に特化したテーマ型の専門誌のほうが、特定の読者がついてコミュニティを創出しやすいでしょう。ですから、専門書にとってネットは非常に親和性が高いのです。しかし、勘違いから、紙の専門誌と同じ制作・編集をしてしまうためになかなか成功できないのが実態です。また、Webメディアでは「個」が問われるようになります。匿名性でやってきた大手メディアは、そのままでは通用しなくなるでしょう。提供するコンテンツの編み方・見せ方が問われ、それらが編者の力量が集客の差になって表れてくるはずです。

 

枠組みが崩壊する中で、ネットを
使ったサービス展開は不可欠だ

 
------
 なるほど。個の力が問われる時代になったわけですね。出版社の経営はますます難しくなってくるでしょうか?

小林 難しくなるでしょうね。何週間も数カ月も企画が滞っていても平気な状況というのは、Webでは考えられません。ネット・ビジネスでは即断即決が普通ですから。ただし、紙メディアをネットと同じようにスピーディに出版するわけにはいきませんから、紙には紙の役割がありますし、タイムラグをどう生かしていくかが問われるわけです。皆がみんな電子媒体でフローの情報を売って成り立つわけではありませんから、紙メディア特有のストック型コンテンツも存在価値は高く、今後も無くなりません。しかし、問題はWeb上で、ただ「新刊が出た」という告知をしているだけでは意味がないでしょう…。

------ ところで、電子書籍は普及していくのでしょうか?

小林 これまではデバイスの問題があったので普及が難しかったと思いますが、アマゾンの電子書籍端末「Kindle(キンドル)」の日本向け出荷が始まりましたし、アップル社がタッチスクリーンのタブレットを投入しましたので期待はできます。結局、慣れの問題だと思います。今どきの薄い新書などは、読むことに慣れれば、一気に電子書籍端末で読む行為にシフトしていく可能性があるでしょう。

------ 印刷物の作り方はどう変わっていくべきだと思われますか?

小林 正解はないと思います。ただし、単に印刷物を作ってしまったら、それで終わりというのではなく、印刷物がどのように広まっていくのか。配布・流通の部分まである程度変革が必要になると思います。顧客のためにトータルに考え、メディアの露出の仕方を含めて提案できる会社は、顧客を獲得していくと考えられます。しかし、単に印刷するだけならば、町の印刷屋さんで安いところに集中していくでしょう。要はどれだけ高付加価値を付けていけるかではないでしょうか。

------ クロスメディア時代になり、印刷会社もWebを使ったビジネス展開が求められていますが…。

小林 第3者がとやかく言うのは何ですが、紙の印刷しかしないと経営者がこだわっているのであれば、それは1つの方法ですから、Webはやらなくて良いと思います。ただし、私自身は印刷は20世紀型のメディア装置であり、21世紀になってインターネットという新しい装置が出てきたわけですから、それを使ってお客さまのお手伝いをして、ニーズに応えていくことも印刷会社の役割だと考えています。つまり、これまでは枠組みがあって、その枠組みの中で自然と仕事ができていた状況ですが、その枠組みが崩壊し、印刷という言葉だけが進化していかないと、経営が難しくなるのは確かです。これは全てのメディアに関わっている企業に言えると思います。ですから、従来の枠組みの中で考えるのではなく、別の頭で発想し、受け入れられるメディアを創出していくことが重要でしょう。ところで、『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』という米国書の訳本が出版されています。ネット上での無料化戦略についての記述や、価格が下がっていく中でいかに儲けていけば良いのかを考察した本で、私が解説と監修をさせていただきました。今後、Web上でメディア展開され、どのように商売をしていこうかと考えている企業さんには、何かしらのヒントになる本だと思っていますので、読んでいただけたら幸いです。

 

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小林 弘人 氏 

HIROTO KOBAYASHI

1965年長野県生まれ。1994年インターネット黎明期に米国の『ワイアード』日本版を創刊。98年株式会社インフォバーン設立。月刊『サイゾー』を創刊。ブログ黎明期から有名人のブログのプロデュースに関わり、人気ブログの書籍化、ブログ出版の先鞭をつけた。06年全米のブログメディア『ギズモード』の日本版を立ち上げる。ECサイトからネット映像配信まで数多くのWebサービスを手掛けつつ、発行人として多くの著名人の書籍を刊行。著書に『新世紀メディア論』(2009年4月・バジリコ)、がある。現在、株式会社インフォバーン代表取締役CEO。メディア・プロデュースと経営の傍ら、大学、新聞社、広告代理店等の招聘で講演やメディアへの寄稿をこなしている。

 

  

 

小林さんの著書『新世紀メ

ディア論』。既存出版社の

進化を促した業界人必読書

 

 

小林さんが監修した『フリー

<無料>かにお金を生みだす

新戦略』(NHK出版)

 

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