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第3回 電子書籍の登場で出版の可能性はますます広がる

株式会社ポット出版 代表取締役 沢辺 均

株式会社ポット出版・代表取締役の沢辺均さん。単行本の企画・制作・販売を手掛けるなか、2000年に出版社に呼びかけて、会員制の「版元ドットコム」を設立し、版元の本の情報をデータベース化、インターネット上に公開・提供する仕組みを作り、運営してきた。現在「出版コンテンツ研究会」のメンバーとなって、出版コンテンツ・サービスの方向性、出版社の役割、ビジョンなどについてメンバーと論議を重ねている。昨年から新刊本を電子書籍でも販売し始めたほか、並行して電子出版に関する講演・セミナーも主催し、多方面で活躍されている出版人である。そんな沢辺さんに、版元ドットコム設立から電子書籍市場の行方、出版社や製版・印刷会社への見解など、多角的にお話を伺った。

 
出版社はより多くの人に
本を認知してもらうことが大事
 

---- 「版元ドットコム」設立の経緯についてお聞かせください。

沢辺 インターネットでは、本の情報が存在していなければ、検索しても本が見つかりません。それは言わば、本が存在しないことを意味しています。そうなると、出版社は本を売りたくても売れませんから、書誌データを集めてデータベース化することが必要だと思い、版元ドットコムを立ち上げました。それに、インターネット社会になり、本のデータベース化を積極的に進めたほうが出版社には利益になるという考えもあって、版元ドットコムをスタートしました。

---- 最大の目的は何でしょうか?

沢辺 出版社にとっては本屋さんに本を並べてもらうことが最大の目的であり、それは今でも変わらないことです。まず本屋さんで平積みされることで、読者に認知してもらう必要があるわけです。でも、インターネットが普及し始めたので、認知されるのは平積みだけでなく、ネットワーク上でその本の情報を認知してもらうことも重要な要素で、私たち出版社が本の情報を発信することが大事だと思ったのです。ネットワーク上に発信することによって、読者が検索して購入してくれるようになれば良いのですが、それは出版社にはあくまでも受動的な行為に過ぎません。そこでもっと能動的に働きかけていくことが大切だと考えて、アマゾンに対して今度出版される本の情報を事前に出して、アマゾンで予約できるサービスを始めました。このように版元ドットコムでは、本の情報を受動的に認知してもらう方法と能動的に働きかけて認知してもらう2つ方法で、本の情報を提供しています。

---- 小さな出版社にとっては情報発信やネット上での販売は難しいでしょうから、意義ある仕組みですね。

沢辺 ええ。現在、160社以上の版元が参加されていますが、元々の趣意が「自分たちが出版した本をより多くの人々に知ってもらいたい」というものでした。読者だけでなく、取次店やオンライン書店に基本的な情報も提供しており、データベースの情報はさまざまな形に変わってより多くの場所で活用されています。世に数多ある出版社の数からすれば、まだまだ限られた出版社のデータしか発信できていませんが、積極的に情報を発信したいという出版社に参加していただければ、それで良いのかなと考えています。世の中の全ての本の情報を発信することは土台無理なことですからね…。

とにかく本の特性としては、同じ題材でいろいろな本が出版されていますが、その選択肢が多いことが、本の売れ行きに繋がると思っています。例えば、電子書籍に関する本が仮に20冊あっとします。何か読みたいなと思った時に、どれを読めば良いのか迷いますよね。迷った挙句1冊選ぶのですが、それによって他の本の購入率が高まると思っています。ある分野でこの世に1冊しか存在しないのであれば、その本に対する興味が有るか無いかよって判断されてしまい、興味がなければ購入されず、その分野に関心が向かなくなってしまう危険性があるわけです。小説にしても純文学が好きな人、ミステリーが好きな人など、千差万別いるからこそ総体として文芸のファンが形成されるのであって、大作家の本だけがあって、毎月その作家の新刊が出版されれば、他の作家の小説は必要ないかと言えば、そんなことはないわけです。いろいろな作家が切磋琢磨して書いたものを読みたいですし、拡がりがあるからこそ読みたいものを見つけられのですから、まずは本の情報を知ってもらうことが大切だというのが版元ドットコムの考えになっています。

---- 御社では昨年から新刊を紙の書籍と電子書籍(.book形式)で発売されましたが…。

沢辺 ネットワーク上で“読み物”の流通が拡大しているために、電子書籍で読みたいという読者のニーズに応える意味で、電子書籍でも販売することにしました。電子書籍市場は今後拡大し続けることは間違いないと思いますが、インターネットが出現した90年代後半頃から、将来の書籍が電子書籍で売り買いされて読まれるようになるだろうという予見はあったわけです。その流れでずっと来ていて、今日の姿がありますから、書籍の電子書籍化は自然の流れではないでしょうか。

 

出版社は電子書籍の台頭で
改革を余儀なくされる

 

---- 出版社が問題にしていることは何でしょうか?

沢辺 出版社のネックになっている大きな問題と言えば、著作権処理とデータ所有権になるでしょう。とくにデータの所有権に関しては、出版社では実態としてのデータを持っていませんから、データが欲しい場合は印刷会社からいただくしかないわけです。でも、印刷会社としても自社で持っておきたいのが本音です。所有権については白黒はっきりせずにグレーのままできているのが現状で、ネット社会の今でも未解決だと思います。確かに、所有権は発行者である出版社にありますが、印刷会社にお願いしてスムーズに交渉が進むかどうかは難しいわけです。借金の返済のように、法的妥当性があったとしても、実際に支払ってくれるかどうかは別問題ですからね。

 逆に出版社から「データをください」と言われる立場の印刷会社にしますと、通常はデータを渡さなければならないのですが、すんなりと渡すのではなく「データを電子書籍に作り直しませんか」などと言って、ビジネスに結び付けていくことを考えていくべきでしょう。DTP、製版会社を含めた印刷業界では、書籍ビジネスにおいてはデータを加工処理する仕事で絡んでいくしかないと思います。とくに書籍専門の印刷会社では、電子書籍が増大し紙の書籍の受注が減少してくると、大きな痛手を被ることは確かでしょうから、電子書籍を逸早くビジネスとして取り入れていくことをお薦めします。そのためには電子書籍に関する知識やノウハウの習得は欠かせないでしょう。

---- 印刷会社は電子書籍をどのように位置付けて考えたら良いのでしょうか?

沢辺 これまで紙の本は、紙に刷られた状態が良ければデータの中身についてはどんなものでも構わないという考えでしたよね。デジタル工程になって、データそのものの正確さではなく、印刷の結果が優先されていたはずです。それは、妥当なことだと思います。

ただし、紙の本と電子書籍の共存時代になった場合、従来の考え方は通じなくなるとみた方が良いでしょう。これまで以上に完全なデータづくりが求められますし、紙の本のための入稿では、フォントにオールアウトラインをかけてPDFにしたとしても、出力の直前で何かあった場合、元データと照合するために、オールアウトライン前のデータもセットで保管しておく必要があります。そして、元データのテキストデータも利用できる状態にしておくことが、これからの制作現場での基準になってくるでしょう。

---- 誰でもが電子出版できる状況下で、既存の出版社はどうしていけば良いのでしょうか?

沢辺 こうすべきだという、正解はないでしょうね。ただ、考えておかなければいけない視点はいくつかあると思います。ネット上で書かれている読み物は広い意味で全て出版と言っても過言ではないと思いますので、1つ1つを区別する必要はないということです。2つめは、とは言っても、それがお金になる読み物であるかどうかは別です。自費出版となれば、既に出版業界では経験していますが、総体的に自費出版の本は売れません。個人(素人)が電子出版で自費出版本を売ったとしても、生計を立てられるほどの売上を上げられるかどうかは、現実としては、非常に厳しいと言わざるをえないでしょう。では、既存の出版社だけが経営を成り立たせる電子出版が可能かと言えば、私はそうは言い切れないと考えています。それでも、出版社を営んでいる者として、既存の出版社が引き続き経営を成り立たせることができるような電子書籍市場を形成していければ良いとは思っています。そのためには出版社は社員を半数にするとか、規模を大幅に縮小して大改革をしていく必要が出てくるかもしれませんが…。

 

電子書籍に囚われないコンテンツ
の加工処理をビジネスに

 

---- では、出版社は電子書籍が普及すれば、淘汰され減少していくとお考えですか?

沢辺 そうとも言えません。印刷会社であるとか、Web会社などが参入してくれば、ある意味出版社となりえるわけですから、総体的な数についてはなんとも言えないでしょう。ただし、一番出版社に近いのは著者だと思います。自分の本を電子書籍にして売ることを考えている著者がいますから、それが上手くいけば、著者と言うよりも、出版社に近い業態になる可能性があります。考えてみれば、菊池寛が文藝春秋社をおこしたように、作家がいろいろな本を出版したいと思って出版社を興したケースもあるわけです。今日の電子書籍にも同じことが言えるのではないでしょうか。つまり、コンテンツを持っている人が出版社になり得る可能性が高いということです。

---- 印刷会社が、例えば、社史や記念誌を電子書籍にして、電子出版ビジネスに関わっていくのはどうでしょうか?

沢辺 社史や記念誌を作ることについては異議はありませんが、社史をわざわざ電子書籍にする必要性があるかどうかです。まして、一般市場で売っていける分野ではありませんからね。Web上で閲覧できるようにすればそれで良いと思います。印刷会社がやるべきことは、紙の社史を作る際に「Webにも掲載しましょう」と、提案していくことがポイントではないでしょうか。大事なことは、社史を作る上で、原稿を書けるライターを確保したり、写真やいろいろな資料を集めて整理していく役割を担うことです。そういうことができる体制を作って、ハンドリングできる立場に立つことが重要ではないでしょうか。Webに掲載するだけでなく、集めた写真にキャプションをつけてDVDの付録を作っても良いでしょうし、付随のさまざまな企画、サービスが考えられますよね。

---- なるほど。電子書籍に絞って考える必要はないということですね。

沢辺 そうです。今は誰もが電子書籍と言っているわけですが、市場へ誘うための食いつきの餌として話題にする分には良いかもしれませんが、出版というのはWeb上のブログであっても出版の一部ですから、なにも電子書籍という方法に限定して考える必要はないと思います。いずれにしても、電子書籍が台頭してくれば、出版の可能性がますます広がっていき、面白しい時代になると思います。また、印刷関連会社は、コンテンツを加工処理してビジネスを成り立たせていくことが、これからの1つの方向性になるでしょうから、出版社と同じような電子書籍ビジネスを始めるのも良いですが、ノウハウを活かして、企業を相手にして顧客のニーズに応えたコンテンツビジネスを目指した方が、得策と言えるのではないでしょうか。

 



KIN SAWABE

 

1956年東京都生まれ。地方自治体の公務員として10年間勤務した後、1988年、デザイン事務所を設立。1995年、有限会社スタジオ・ポットを設立し代表取締役に就任。ポット出版としてスタートする。2000年、中小出版社に呼びかけ会員制ネットワーク「版元ドットコム」を立ち上げる。株式会社に組織変更。2005年、有限会社スタジオ・ポットSDに分社化・事業移転。2006年、版元ドットコムを有限責任事業組合化する。現在、164出版社(20108月現在)の会員による版元ドットコムのWebサイトを運営している。「出版コンテンツ研究会」で出版分野の委員も務めている。


ポット出版のWebサイト

http://www.pot.co.jp/

 

 

『電子書籍と出版』(20107月刊行)

電子書籍の登場で、出版界の状況がどうなるのか。出版の在り方はどう変わるのか。さまざまな分野で最前線にいる関係者に訊いた業界関係者の必読書。

 

 

『デジタルコンテンツをめぐる現状報告』(20097月刊行)沢辺さんがインタビュアーとなって、「出版コンテンツ研究会」の有志、出版、音楽配信、印刷会社、役所、ITの現場の5人のエキスパートに、出版コンテンツの現状と未来を訊いたインタビュー本。

 

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