ニュースリリース
2022.11.10
◆富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ 生産工程最適化事例― ―株式会社第一印刷所 MISから印刷工程までのJDF連携フローにより、生産効率を一気にアップ システム・組織の両面から最適化。世界トップクラスの品質と生産性を実現
新潟に本社を置き、印刷を中心に情報加工を幅広く手がける株式会社第一印刷所(代表取締役社長:遠山 亮氏、本社:新潟市中央区和合町2-4-18)は、生産改革の一環として、完全自動運転コンセプトの最新オフセット印刷機の導入に加え、MISと『XMF』を連携させたJDFワークフローの構築により、かねてから追求してきた「生産性と品質の高水準の両立」に磨きをかけている。印刷機メーカーのハイデルベルグ、MISベンダーの両毛システムズ、ワークフロー全体のコーディネートを担うFFGS、そして第一印刷所グループという4社の協働によるプロジェクトとなった今回の取り組み。その経緯と具体的な効果について、代表取締役社長・遠山 亮氏、代表取締役専務 製造本部長・小出博信氏、製造本部 プロダクトD’sNET推進室 室長・南清人氏に伺った。
■ジョブチェンジを極限まで効率化するために
第一印刷所は、新潟県内・東京都内合わせて18カ所に拠点を持つ総合印刷会社。グループ会社7社と独自のネットワーク『D’s NET』を構築し、各社との相互連携により、プランニングから印刷・加工、配送、さらにはBPOサービス、イベントの企画運営、デジタルメディア制作に至るまで、幅広い領域を網羅したワンストップサービスを提供する。
印刷事業の製造拠点は新潟市江南区曙町の本社工場に集約。プリプレスおよびポストプレス工程は、いずれもグループ会社の株式会社プレスメディア、株式会社あけぼのがそれぞれ担っているが、いずれも第一印刷所の本社工場と近接しており、運用上も密な連携によって一体化したワークフローが構築されている。
左から遠山社長、小出専務、南室長
第一印刷所の大きな強みの一つは、スピードと品質を極めて高い次元で両立する生産体制にある。オフセット印刷においては、AM230線による高精細印刷を基本とし、LED-UV仕様の最新オフセット印刷機と、インライン品質検査装置、1級・2級技能士の資格を持つオペレーターによる徹底した品質管理により、同社が掲げる“極み印刷”のコンセプトを具現化している。また、小ロットジョブについては、富士フイルムのインクジェットデジタルプレス『Jet Press 750S』により、オフセットと同等の高品質な印刷物を短納期かつ最適なコストで提供するオフセットとデジタルを融合したハイブリットワークフローを確立している。
そんな同社が今回取り組んだ生産工程の最適化は、これまで追求してきた効率化をさらに高い次元へと昇華させる、自動化への挑戦でもあった。
「小ロット化が進む環境下で、オフセット印刷の現場で課題になっていたのが、ジョブチェンジをいかに効率化するか、ということでした。ジョブ間の準備時間を極限まで短縮したかった。最新マシンの自動化技術でその実現を目指しました」(小出専務)
■MISの入力精度を高めることで印刷機の自動化を活かす
ただ、この「印刷機の自動化」を最大限に活かし、生産工程全体の効率アップに結びつけるには、前工程の見直しが必要だった。具体的には、MISへの受注情報(印刷物の仕様など)の正確な入力と、その情報を生産工程で活用するデータ連携の仕組みの確立である。
「私は2015年に製造本部長に就任しましたが、当時、『既存の設備では今後勝ち残っていけない』と感じていました。競争力を高めるには、大砲とレーダーが必要だと。そこでまず大砲としてJet PressとハイデルベルグのXL106を導入したわけですが、大砲の弾を当てるにはレーダーが要る。そのレーダーに相当するのが、MISや『XMF』を軸とするワークフロー。今回最適化を図った部分です。これによって、『職人の手で紙にインキを乗せる』というオールドビジネスを、ニュービジネスに変えることができると考えました」(小出専務)
従来のフローの大きな課題の一つは、MISへの入力情報が標準化されていないことだった。営業部門での使いやすさを優先してMISをカスタマイズしていたため、結果として「手書き伝票をPCに置き換えたレベル」のものになっていたという。
「自由入力が可能だったので、確かに営業にとっては使いやすかったのですが、個人によって入力する項目にバラつきがありました。そのため、生産管理部門であらためて製品仕様などを確認し、工程管理システムに入力し直すという二度手間が生じていたのです。当然、受注と実績もリンクしていない状態でした。自動化フローを実現するには、この入口から変えていく必要があったわけです」(遠山社長)
そこで、MISと工程管理システム・ワークフローシステムとの連携フローを構築するべく、新たなMISとして、両毛システムズの『PrinTact』を導入。営業による受注情報の入力項目も統一を図った。さらに、ワークフローシステム側は、2014年から使用している『XMF Complete』『XMF Remote』の環境に、MIS連携ツール『XMF Controller』を追加。これにより、MISの受注情報からXMFジョブを自動生成するフローが実現し、面付け作業含む各種プリプレス設定の効率化および印刷工程へのジョブデータ継承も可能になった。
MIS上で印刷機の予定を管理し稼働状況の見える化も実現している
■属人化していた作業を見える化し、フローを再構築
この連携フローの構築にあたっては、FFGSがコーディネーター役として全面的にサポートを行なったが、南室長は「とくに、課題を見える化し解決策を見出していくプロセスを、客観的な視点でサポートいただいたのが成功の要因になった」と評価する。
「たとえば、『XMF』でのジョブ作成の作業。従来は熟練した担当者が手がけており、他の者から見るとどれだけ手間がかかっているのかもわからず、ブラックボックスの状態でした。そこで、客観的に見て改善できる部分がないかを検証し、問題点を洗い出した上で、当社の業務フローや現実的にできる範囲、作業負荷などを加味しながら解決策を見出していった。この一連の作業を、FFGSさんとディスカッションしながら進めたことで、あらゆるジョブのパターンにおいて前後工程と連携した、より有効なフローを構築できたと思っています」(南室長)
さらに、MISから『XMF』、印刷機へのデータ連携についても、実際のジョブを想定した処理の流れの確認、課題の見える化とその解決方法の検討を、FFGS、両毛システムズ、ハイデルベルグと協働で進めていった。
「さまざまなベンダーとの連携実績が豊富なFFGSさんにコーディネート役を担っていただいたからこそ、4社ワンチームで取り組むことができ、マルチベンダーのワークフローを完成させることができたのだと思います。私どもが各ベンダーさんと個別にコンタクトをとりながら進めていたら、全体をまとめるのに相当苦労したでしょう」(遠山社長)
■プリプレス工程ではジョブ作成の工数が4割削減
では、今回の生産工程最適化により、どのような効果が生まれているのだろうか。南室長によると、プリプレス工程においては、『XMF』でのジョブ作成を中心に、大幅な工数削減が図れているという。
「MISの情報から『XMF』のジョブを自動作成できるようになったことが大きいですね。通常のページ物制作では70ほどのタッチポイントがありましたが、新しいフローでは、それを4割ほど削減できています」(南室長)
従来のタッチポイントの数が多かったのは、プリプレス段階からカラーマネージメントを徹底している同社ならではの事情もある。
「これまでは、使用する印刷機や紙の種類、インキの組み合わせに応じて、CTP出力担当者が1件ずつ、CTPカーブの設定を行なっていました。とくに、ページ物で複数種の紙を使うようなジョブでは、タッチポイントの数は膨大になります。今回、MIS-XMF連携によってカーブ設定も自動で行なえるようになったことで、作業効率が上がったのはもちろん、ミスの削減にもつながり、オペレーターの安心感も高まっています」(南室長)
また、営業部門でのMISへの入力作業の標準化により、生産管理部門での確認・作業負荷も軽減された。
「MISへの入力の手間は増えることになるので、営業からは当初、不満の声も出ましたが、いまでは当たり前のこととして定着していますし、受注情報の正確な入力を徹底することで、営業の知識習得にもつながっています」(遠山社長)
さらに、システム面だけでなく組織体制も見直し、第一印刷所(印刷工程)とプレスメディア(プリプレス工程)の連携も強化。業務的には両社を事実上統合した形となり、プリプレス~印刷工程間のよりシームレスなフローが実現した。
こうしたシステムの再構築や組織戦略の相乗効果により、プリプレス工程だけで1~2名分の工数削減が図れており、多能工化と合わせて人員配置の柔軟性が増したという。
MIS-XMF連携により、ジョブ作成の工数が大幅に削減された
■戦略課題だった準備時間は「平均9.0分」まで短縮
一方、印刷工程においては、準備時間の削減効果が明確に表われている。XL106導入前、の2014年の主力オフセット機では43分ほどかかっていたが、XL106の2台体制構築後の2021年の平均準備時間は10.8分(XL106の2台平均)と約75%減。さらに、JDFの運用を始めた半年間の実績では17%削減され、なんと9分。これは、特色・プロセス4色の色替えなども含めた平均値であることを考えると、驚異的な数字であり、機材メーカーからも世界トップクラスの生産性と評価されている。
「簡易なジョブでは5分を楽に切ります。とくに、JDF運用は一つのジョブを刷り終わってから次の刷版がセットされるまでの時間短縮効果が大きいですね。そのセットアップにJDFを使うことによって、用紙やインキなどの情報の手入力が不要になっており、この部分だけで比較すると3割以上の時間短縮になっています」(南室長)
JDF運用の応用として、MIS側でも、印刷準備に必要なデータ(JDF+PPF)がすべて揃っていることを印刷予定表上にて一目で確認し送信できる仕組みをつくることによって、現場での余計な確認作業を不要にするといった工夫も行なっており、これも印刷準備時間の削減に大きく寄与している。
また、同社は小ロットのジョブを『Jet Press 750S』に、中~大ロットのジョブをオフセット機に振り分ける「オフセット・デジタル共存のハイブリッド運用」を行なっており、これによってオフセット枚葉部門全体の稼働効率を高めている。
こうしたさまざまな最適化の相乗効果により、枚葉印刷における生産性は、小ロット化が進んだにもかかわらず、2014年比で約1.8倍と大幅に向上(約4,000枚/時向上)し、その改善効果は、印刷機の間接時間も含め、約14,658時間/年を見込んでいるという。
小ロットジョブをJet Press750Sに振り分けることでオフセット機
の稼働率を高めている
■働き方のイノベーション、企業としての魅力アップを目指す
このコロナ禍でも投資を止めず、着々と生産改革を進めてきた第一印刷所。その結果、製造を担うグループ4社の利益率は、最適化の活動を始めた当初から6.9ptと大きく向上した(2022年8月現在)。また、生産工程全体の効率化により、印刷機オペレーターが後加工の作業に携わるなど、“人員配置の最適化”も実現している。しかし、同社の挑戦はこれがゴールではない。小出専務は「今回構築した新しいワークフローをさらに磨き上げ、生産性アップだけでなく、働き方のイノベーションにもつなげていきたい」と今後を見据える。
「たとえば、印刷機のワンオペ体制を実現し、週4日、5~6時間勤務といった多様な働き方を可能にする。こうした環境整備を推し進めることで、企業としての魅力を高め、若い方々に“第一印刷所で働きたい”と思ってもらえる存在を目指したいですね」(小出専務)
その上で、FFGSをはじめとするベンダーとのパートナーシップを引き続き大切にしたいと語る小出専務。最後にこう締めくくった。
「今後も私どもの課題に対してさまざまな提案をいただき、一緒にディスカッションしながら、さらなる変革の道を探っていければと思っています。また、今回の生産工程最適化の成果については、きちんとデータをとり、皆さんにフィードバックしていきます。当社だけが利益を享受するのではなく、結果を共有してお互いの成長につなげるということも、ビジネスパートナーとして大切なことだと考えています」